根管治療について 膿が貯まって痛い その16
こんにちは! あおば歯科クリニックの院長昆敏明です!
新しい年が始まりました。今年もより多くの方の手助けが出来れば幸いです。
今年最初の根管治療のケースはリーマー破折によって感染し、大きな歯根のう胞になってしまったケースです。
当時50代のSさんは上の前歯の歯ぐきが大きく腫れてきたため、近所の歯医者に行ったところ抜かないとだめだと言われました。なぜ抜かないといけないのか、何が原因なのかという事については言及しなかったそうです。
かなりの大きさの歯根のう胞があります。黄色で囲った部分です。
そして根管内には根充剤のようなものが映っていますが、根尖から突き出ているように見えます。
この突き出ている物体をよく見てください。何となくラセン状に見えませんか。
どうもリーマーかファイルのように私には見えました。患者様から上のかぶせものは外さないで治療出来ませんかと懇願されましたので、外科的根管治療で逆根充する方針で手術を行いました。
歯肉を剥離したところです。すでに唇側の骨が溶けて消失しています。
黄色で囲った部分の骨がなくなっています。矢印のところは歯根のう胞の表面が見えています。
歯根のう胞を摘出しようとしています。
歯根のう胞をきれいに掻把しました。根の先から何か飛び出しているのが見えます。
拡大しました。
はっきりしないので突き出ている周囲の不良肉毛をきれいにしました。
明らかに何かが飛び出しています。最初の予想通りリーマーでした。この後、リーマーを除去しスーパーEBAにて逆根充を行いました。
突き出ていたリーマーを除去し、スーパーEBAで逆根充したところです。
術後のレントゲン写真です。黒かった影が消えて、白くなっています。骨が再生したという事です。
これまでリーマーやファイルが折れて根管に突き刺さっているケースをいくつかお話ししてきました。なぜこのようなことが起こるのか。またなぜ折れてしまったリーマーやファイルを取り除こうとしないのか。疑問に思われるでしょう。実はこれには日本の国民皆保険制度の闇が関係しています。調べてみればわかりますが日本の根管治療の料金は欧米の料金と比べて桁が一つ違います。Sさんは上顎前歯部なので抜髄だったとして現在の保険点数は234点つまり2340円です。患者さんはこの3割を窓口で支払うので約700円になります。単根管の抜髄に要する時間は最低でも30分は必要です。1時間あれば保険ではタダでやりなさいと言われている隔壁もラバーダムも時間的には十分でしょう。しかし1時間かけたらすべての歯科医院は潰れます。本当です。これが欧米ですと2万円から10万円以上の費用がかかるのです。以前眼科医の先生にこの根管治療の費用は医科でいったらどんな治療に相当するぐらいのものですかと質問していた記事を読んだことがあります。その際にその眼科医は白内障の手術ぐらいの技術、費用に相当するのではないかとお話しされていました。そこで白内障の手術の費用を調べてみました。保険で手術は12100点、リカバリールーム代2718点合計148818点になります。つまり148810円です。これの3割負担ですと約45000円が窓口負担になります。ちなみに白内障の手術でも手術用の顕微鏡を使用するのですが、やはりツァイスを使用している先生が多いようです。私どもあおば歯科クリニックでも根管治療の際にツァイスのマイクロスコープを使用しています。同じような機材を使用していても国からの費用は桁が違うという事です。なのでリーマーやファイルは金属疲労を起こして折れる寸前まで使用しているのが日本の根管治療の現実です。しかも大学の教育では折れた時にどうやってリカバリーするかという教育はほぼ行われていません。なのでリーマーやファイルを折ったとしてもそれを取り除く技術を持ち合わせている歯科医師はごく少数の人たちです。国が根管治療の点数を現在のような非常識なくらい低く抑えている限りはこのような破折の事故は減ることはないと断言します。