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ケース2 歯根が割れているから抜歯 治癒ケース

割れているから抜歯と言われたが実際は側枝からの根尖病巣だったT様のケース

年齢 60歳

性別 男性

主訴 左下が腫れて、おできが出来たが診てもらったら、割れているので抜歯と言われたが本当か

現状 腫れはすでに落ち着いているが頬側にフィステルを形成している 動揺はないが咬合痛がある

       

診断 歯根破折している可能性もあるが、近心側に病巣がひろがっているので側枝(ソクシ)由来の感染の可能性が高い いずれにしてもメタルコアーを除去してマイクロスコープで根管内から破折しているかどうか診断する必要がある

 

          【近心に大きな病巣がある】

       

治療法 冠と土台の撤去 マイクロスコープで根管内部から破折線の確認 破折線が確認できなければ側枝の可能性が高いので根管治療を開始 経過によっては外科的根管治療の併用も考慮する

治療期間 約2か月

費用 保存治療 138,000円

治療経過 クラウン、メタルコアーも除去。前医のガッタパーチャポイントを除去。マイクロスコープで根管内を詳細に観察するも破折線は認められないため、側枝の可能性が高いと判断し、根管治療を開始。隔壁を作成し、ラバーダムを掛けて根管形成を行い、根管通過法を行う。

 

          【根管通過法第一回目】

        

 

    【3か所から水酸化カルシウム製剤が出ているのが わかる】

        

3か所から水酸化カルシウム製剤が通過しているのが分かる。根尖を含めて側枝が2か所あるのかそれとも破折している箇所から水酸化カルシウム製剤がもれているのか判断が難しい。念のため、この後数回、根尖通過法を行う。フィステルが消失したのと咬合痛もなくなったのでMTAにて根充。

 

       【1年後 病巣が劇的に縮小 ほぼ骨再生している】

           

 

         【赤丸で囲んだ部分まで病巣が縮小】

           

 

          【2年後 病巣はさらに縮小】

           

 

          【赤丸で囲んだ部分 ほぼ骨再生】

           

 

           【8年後 再発することなく治癒】

           

 

           【赤丸で囲んだ部分 骨が再生】

           

 

        【治療前と治療後の違い 骨再生が良く分かる】

        

考察 通常歯根破折の際のレントゲン像は「ハロリージョン」と呼ばれる独特の暗影を呈す。今回は典型的なハロリージョンではなかったものの水酸化カルシウム製剤が複数個所から漏れていたケースであったのでクラックが入っていると考えてもおかしくないケースだった。実際日々臨床していると、次のレントゲン写真のような明白な破折のケースは実はそう多くはないし、その際の診断に困ることもない。患者さんもレントゲン写真を見たら破折と理解できる。他院で「割れているので抜歯」と言われたというセカンドオピニオンのご相談は臨床経験30年の間に数多く頂戴した。そのうち本当に破折していたのは実はごくわずかであった。むしろ今回のケースのように単なる根尖病巣であったことの方が圧倒的に数は多かった。なので患者様には「割れているから抜歯」と言われても諦めずに相談していただきたい。

 

              【縦破折している】

            

 

しかし臨床の現場で診断に悩む多くの破折はクラックの段階のケースである。次の写真は腫れてきたが他院で原因不明と言われたケースだがインレーを除去すると中はひどいカリエス

        

遠心部を拡大してもよくわからない。

        

カリエスを除去すると

       

 

この状態ではよくわからないが拡大してみると

        

遠心にクラックがあるのが認められる。メチレンブルーにて染色を行った。

        

染色した遠心部を拡大してみると明らかにクラックがはいっているのが分かる。

        

このようにクラックは肉眼で見てもはっきりしない、レントゲン像でもはっきりしないのでその診断は非常に難しい。ですから安易に「割れている」とは言えないケースも多い。

また実際にクラックが入っていた時に救えるケース救えないケースがありその診断が非常に難しい。

次のケースは救えずヘミセクションになったケースである。

【左下6番近心根の根尖からクラックが入っている そのクラックに沿って骨吸収しているのが分かる】

          

        【根尖から縦にクラックが入っている】

          

【クラックが入っていて骨吸収も起きていたが、クラックを修復し骨も再生できたケース】

        

        【クラックが生じていて唇側の骨が完全に吸収している】

        

こんなケースでも抜かずに骨再生できることもあるので、私たち歯科医師はどんなケースでも基本的には助けるという姿勢で治療にあたらないといけない。それが歯科医療の進歩発展につながると信じる。