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根管治療について 膿が貯まって痛い その12 

こんにちは!あおば歯科クリニックの院長昆敏明です。

根管治療の続きです。

本日は右下6番が腫れて痛いので、都内の歯医者にかかっているがあまり説明もなく、腫れも収まらないので、診てほしいというセカンドオピニオンにいらした50代男性Kさんのケースです。

お話を伺った後、レントゲン写真を撮りました。

右下6番の近心根の遠心側中央部に何かが突き出ています。

ここまで私の症例をご覧いただいている方ならもうわかりますね。おそらくガッタパーチャポイントなどの根充剤があろうことか近心根の中央部から突き出ているのでしょう。

歯の状態は良くないです。歯ぐきの上に見える歯がほとんどありません。治療中という事でしたが、隔壁(カクヘキ)がありません。これではラバーダムもかけられません。ラバーダムはやらないとしても、隔壁がないこの状態では唾液が根管内に入ります。この状態を見ただけで、前医は治そうとしていないと思えます。

仮封(かふう)

仮封(かふう)を取りました。仮封(かふう)とは一時的に根管を封鎖しておく詰め物のことです。実はこの仮封が根管治療の重要な役割を果たしています。現在歯科の根管治療で使用されている仮封材には主に数種類あります。①ストッピング②水硬性セメント③ユージノールセメント④グラスアイオノマーセメントなどが主な仮封材です。どんなに厳格に隔壁を作り、ラバーダムをかけて唾液の侵入を防いだとしても、仮封材が良くなければ細菌の侵入を招いてしまいます。ですからラバーダムだけに注目するのではなく、根管治療はトータルで見なければいけません。それぞれの特徴を説明します。まずストッピングです。今もこのストッピングを使用している医院は多いのではないかと思いますが、このストッピングは数時間もすれば唾液が侵入してしまいます。細菌の侵入を防ぐことに関しては全く役に立ちません。なぜこのストッピングが今も使用されているのか不思議です。ですがそもそも治そうと考えていなければ、材料代の最も廉価な仮封材を使用しようとするのは当然です。このストッピングは安い、早い、唾液が侵入するというセメントです。早いというのは仮封材を付けるときも仮封材を外すときも非常に短時間で済ますことが出来るという意味です。早い、安い、良くないセメントです。次に水硬性セメントですが、こちらもよく使用されている仮封材です。唾液の侵入に対しても抵抗があり、機械的強度も有しています。操作性も優れていて、仮封材を付けるときも外すときも比較的短時間で済みます。ですがこの水硬性セメントを当院で使用していない理由は水硬性という事にあります。このセメントは水に触れると硬化を開始します。なので臨床現場では、小豆大の水硬性セメントを取り出して、根管をふさぐように充填をした後、水で濡らした綿球でぬぐい、すぐにうがいをさせます。ここが大問題だと当院では考えています。水綿球で濡らしたらすぐに硬化して細菌の侵入を防ぐことができるのか、疑問があるのです。まだ完全に硬化していないうちにうがいをさせて良いのか。さらに根管壁とこの水硬性セメントに接着力があるのか、疑問があります。最後のグラスアイオノマーセメントは機械的強度も接着力も強いので細菌の侵入を防ぐという目的では最も優れています。ですが、費用が他の仮封材よりも高価なこと、操作性が非常に悪いので一般的にはほぼ使用されていません。ただし2週間から1か月ぐらいの長期間経過を観たい場合にはとても有効なセメントなので、そのような目的で当院では使用しています。ユージノールセメントを使用している医院は日本でもそう多くはないと思われますが、当院では30年前から使用しています。あまり使用されていない理由は、費用が比較的高価な事とおそらく一番の理由は操作性が良くないことだと思われます。操作性が良くないというのは、液と粉の二種類を混ぜて使用するのが煩雑であること、硬化するまでに3分ほどかかるので完全硬化するまでの3分間患者さんをユニットに座らせたままにしておかなければならない事、さらに除去するとき非常に硬いので超音波スケーラーなどの器械を使用しなければ外せないことなどがあるからです。しかしこれらは全て医院側の理由であり、歯を治そうと本気で考えたら取るに足らないことのはずです。根管治療を本気で治そうと思ったら、仮封材は絶対にユージノールセメントを使用すべきです。

ラバーダムを使用してストッピングをするような先生はいないとは思います。しかしラバーダムを使用すれば治るといったラバーダム神話を信じてしまうと本質を見失ってしまいかねません。

仮封材を除去しました。歯肉より上にほとんど歯がありません。これで治療をしていたのでしょうか。ちなみに仮封材は水硬性セメントでした。

 

もう一度レントゲン写真を見てみましょう。突き出ています。

黄色丸で囲んだ部分です。

拡大しました。

CTでも確認していきます。

突き出ているのは近心根の舌側にある近心舌側根(キンシンゼッソクコン)から飛び出していることが分かります。

上から輪切りにして見てみましょう。下の写真にいくに従い、根尖方向に切っていきます。

遠心根のガッタパーチャポイントが少し見えています。白くなっているところです。

近心根のガッタパーチャポイントが見え始めました。二本あるのが分かります。

舌側のガッタパーチャポイントが遠心方向に膨らみ始めています。

舌側のガッタパーチャポイントが完全に根管外、つまりあごの骨の中に入っています。

CT撮影をすれば、近心根の舌側根からガッタパーチャポイントが突き出ているとすぐに診断できます。逆に言えば、CT撮影をせずに盲目的に治療開始するのは非常に危険です。

以上に事をKさんにご説明し、治療を開始しました。

まずは、隔壁(カクヘキ)を作るところからです。隔壁がなければラバーダムをかけても唾液の侵入を防ぐことが出来なのでしたね。なのでまずは隔壁です。

隔壁が出来ているのが分かります。白いレジンを使用しています。

黄色で囲んだ部分です。

CTで近心根の舌側根の遠心側に穴をあけてしまっていて、そこからガッタパーチャポイントが突き出ているのが診断できています。なのでその部分に神経を集中してマイクロスコープを覗きます。

見つけました。

分かるでしょうか。マイクロスコープを拡大します。

さらにマイクロスコープを拡大します。ここに穴を開けてしまって、ガッタパーチャポイントが突き出ているのが見えます。

赤矢印部分です。

黄色で囲んだ部分です。

マイクロスコープをさらに拡大してみます。

 

岡口先生考案のマイクロエキスカなどを使用してガッタパーチャポイントの一部が取れました。

拡大して見てみましょう。ガッタパーチャポイントですね。

もともとの状態のレントゲン写真です。

除去した後撮影したレントゲン写真です。やはり突き出ていたのは1本ではなく、2本以上のようです。まだ一部残留しているのが分かります。

残りのガッタパーチャポイントも何とか除去することが出来ました。

ガッタパーチャポイントのかたまりですね。

ガッタパーチャポイントは熱可塑性樹脂(ネツカソセイジュシ)と言って熱を加えると柔らかくなって変形します。その性質を利用して、根充する際に熱を加えて根管壁に密着させるのです。その際の熱で変形したガッタパーチャポイントだと思われます。

確認のレントゲン写真を撮りました。突き出ていたガッタパーチャポイントがきれいに除去されています。

赤丸部分です。

マイクロエキスカ

マイクロエキスカとは根管内の腐敗したガッタパーチャポイントや汚染物質をマイクロスコープを見ながら取り除く非常に繊細な器具のことです。

先端を見てみましょう。

非常に細くて繊細なのがわかります。

 

その後、分岐部の骨欠損がポケットと交通していましたので、骨再生療法を行いました。

手術直後で分岐部が少し赤みを帯びていますが、歯肉も再生しています。

黄色矢印部分です。

治癒

きちんと冠も装着され、今ではなんでも召し上がれるとのことでした。Kさん、抜かずに本当に良かったですね。