根管治療 膿が貯まって痛い その3
こんにちは! あおば歯科クリニックの院長昆敏明です。
上の前歯の歯ぐきが腫れて、切開してもらって腫れは引いたものの、歯ぐきにおできができてそれは治らないと言われた30代女性Kさんのケースを見ていきます。今回のケースも抜歯と言われてのセカンドオピニオンケースです。
根管治療って何?という方のために復習からしていきます。
まずお話しておきたいのは、私たち歯科医師が根治(コンチ)という場合、ほとんどが抜髄(バツズイ)と言って神経を取る処置の予後が不良で、それをやり直す場合に使う言葉です。なので根管治療(コンカンチリョウ)というと根治(コンチ)のことを指している場合が多いのです。
その根管治療(コンカンチリョウ)のことをなぜ今まで書いてこなかったのかといえば、それはほかの先生の抜髄(バツズイ)が上手くいかなかったこと、さらに言えば自分自身による抜髄が上手くいかなかったことを公にすることをためらってきたからでした。それはどんなに精密に抜髄をしたとしても、あおば歯科のドクターにも起こる可能性がゼロとは言い切れない事象だったからです。実際私も過去、抜髄をして予後不良になり再治療を余儀なくされた経験は何度かあります。それはどんなに精密に抜髄をしても根管の解剖学的形態を考えたら、成功率100%にはならないくらい根管が複雑だからです。
歯の根っこの走行を示した解剖写真です。神経って一本糸のようなものを引っ張れば取れてくるイメージです。しかしそんな簡単なことではない感じが見てわかります。
だからこそ私たち歯科医師は自分たちが行った治療が原因で抜歯という最悪の結果にならないように患者さんに向き合わなければいけません。ところが抜髄の予後不良ケースにはあまりにも酷いケースがあります。そもそも治す気があるのかと疑うようなケース、先生と呼ばれている人が行ったとは到底考えられないケースなど、あまりにも酷いケースがあるのです。
医原病
このように医者や歯医者が治療行為を行った結果、違う病気になってしまうことを医原病と言います。感染根管治療(カンセンコンカンチリョウ)はほぼ医原病と言っても過言ではありません。つまり抜髄(バツズイ)の失敗の結果できる病気なのです。
自然になった病気ではないのです。私が感染根管治療に真摯に向き合い始めてから30年以上が経ちますが、時代も当時とは変わりました。SNSもありませんでしたし、ネットもこんなに発達していませんでした。ところが今では少し検索すればどんな情報も手に入るようになりました。もう隠す必要もないでしょう。むしろ根管治療に真摯に向き合っている歯科医師がいるという事実を伝えた方が良いと考えます。
さて根管治療の復習です。
「神経を取る」という治療のことを抜髄(バツズイ)というのでした。虫歯が進行していくと冷たいものがしみたりします。そのままにしておくと冷たいものだけでなく、熱いコーヒーなどでも痛みがでてきます。こうなると歯髄炎(シズイエン)と言って神経にまで炎症が波及して、自然に治ることはありません。通常歯医者ではそのような場合に「神経を取る」治療を行います。ところがこの「神経を取る」治療が非常に難しいのです。ですから歯を残すためにはこの抜髄や感染根管治療を徹底的に学ばなくてはいけないのです。よく患者さんから聞かれる質問があります。歯医者の皆さんは国家試験を合格しているのだから、皆同じようにできるのではないですか?と。国家試験合格はスタートラインに立つことが出来たぐらいの意味しかありません。国家試験に合格しても治療は全くできません。本当です。問題は合格後、抜髄や感染根管治療を徹底的に教育するシステムがないことです。
本題からそれてしまいました。
この神経取れると思いますか。
本物の歯の神経の管に染色液を入れて、その走行を調べた写真です。複雑怪奇です。
神経を取るというと一本の糸をすーと引くと取れてくるようなイメージをお持ちのようです。私も歯科医になる前はそんなイメージを持っていました。奥の大臼歯など場合によっては2時間ぐらいかかることもあります。2時間でも納得がいかないケースもあるくらいです。
神経を取ったらそれで治療が終了ではありませんでした。その後神経があった管の中にばい菌が侵入しないように薬を詰めていきます。ガッタパーチャポイントと呼ばれる材料とシーラーという薬剤を併用して根管(コンカン)を封鎖します。この封鎖も難しい技術と診断力を必要とされるのでしたね。
水色の部分がガッタパーチャポイントです。
下の写真がガッタパーチャポイントです。この薬とシーラーを根の中に入れていきます。
理想的には歯根(シコン)の先ピッタリが良いと言われています。しかし先ほど説明したように根管(コンカン)の形態は非常に複雑怪奇です。なので一概にピッタリが良いと限らないケースもあります。詳しい説明はまた後日しましょう。
根尖付近にガッタパーチャポイントが到達しています。
神経の管に入れる薬が根尖(コンセン)まで入っていません。途中までしか入っていなかったり、薬がスカスカだったりするとその空間にばい菌が繁殖して感染を起こすのでした。そうすると神経を取って痛くなくなったはずなのに、その後歯ぐきが腫れて痛くなるのでしたね。
根の先が黒くなっています。ガッタパーチャポイントもほとんど入っていません。
上の写真の模式図です。水色がガッタパーチャポイントです。赤い点が根尖病巣、膿が貯まっているところです。
神経を取る治療、抜髄(バツズイ)をしてもらったのですが、歯ぐきが腫れて痛くなってきている状態です。この治療を行った歯医者さんに行っても治せないだろうと想像できますね。この病気を作ったのはその歯医者さんだからです。これが医原病と言われる所以です。
ですからこの方も別の歯医者さんに行きました。
根尖にあった黒い影が消えています。
水色ガッタパーチャポイントです。根尖病巣の赤い色はなくなっています。治っていますね。
ここまでが復習です。
さて、神経を取った後、お薬が根の先まで入っていなかったり、スカスカだったりするとその空間に細菌が繫殖して根の先が化膿するということを説明してきました。ではガッタパーチャポイントが根の先から突き出てしまったり、他の異物が突き出てしまったりした場合はどうなるのでしょうか。それが根管外異物です。そういったケースを今回も私が治療してきた患者さんで説明していきます。
上の前歯の歯ぐきが腫れて、切開してもらって腫れは引いたものの、歯ぐきにおできができてそれは治らない、抜歯と言われた30代女性Kさんのケースです。
お口を拝見したところ、右上2番の根尖にフィステルができていました。そこでレントゲン写真を撮影したのが次の写真です。
歯根のう胞
私のブログをここまで読んできた皆さんならもうお分かりですね。根尖に黒い透過像ができています。大豆ぐらいの大きさです。もう少し大きいかもしれません。根尖病巣ができています。さらに根尖をよく見ると、何か白く細いものが根の先から飛び出しているように見えます。
飛び出ているのは赤矢印です。黄色は根管内にあるガッタパーチャポイントだと思われます。かなり大きい歯根のう胞になっています。
Kさんに、現状を詳しく説明をしました。なぜフィステルができているのか。どうしたら治せるのか。説明に1時間はかかりました。今回のケースは完全に上あごの骨の中にガッタパーチャポイントが落ちてしまっています。そのガッタパーチャポイントを取らないとこの病巣は治らない可能性が高いです。そのためには外科的根管治療(ゲカテキコンカンチリョウ)が必要です。歯医者に来て骨の中の手術をすることを想像して来院する患者さんはほとんどいません。しかもそれがお顔の骨なのです。説明に2時間かかることもあります。一回の説明では理解していただけないこともあります。その場合はさらに説明をしています。
詳しくご説明をして、なぜこうなったのか、どうしたら治るのかご理解が得られたので、Kさんの治療を開始しました。
まず根管の中がどうなっているのか確認です。充填されていたレジンというプラスチックの詰め物をはずして中を確認していきます。根管内のガッタパーチャポイントなど感染源となるようなものをきれいに取り除きました。
ですが、根管の外に出ているガッタパーチャポイントは取れません。繰り返しになりますが、ガッタパーチャポイントは上のあごの骨の中に落ちてしまっているのです。この後、手術をおこないました。外科的根管治療です。
保険用語では歯根端切除手術(シコンタンセツジョシュジュツ)と呼ばれていますが、私共では外科的根管治療(ゲカテキコンカンチリョウ)または外科的歯内療法(ゲカテキシナイリョウホウ)と呼んでいます。それがなぜなのかまた後日説明をしていきます。
手術直後のレントゲン写真です。根尖部から飛び出していたガッタパーチャポイントが取り除かれているのが見てわかります。それからねの先に少し膨らんだような詰め物が見えます。これは逆根充(ギャクコンジュウ)という根尖から封鎖する方法です。
赤矢印の部分です。
その後、フィステルも完治しました。1年後のレントゲン写真を見てみましょう。
治癒
黒かった部分が白くなっているのが良く分かります。骨が再生をして治癒したという事です。
赤丸の部分です。Kさん、抜かずに済んで本当に良かったですね。