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根管治療について 膿が貯まって痛い パーフォレーション その9

こんにちは! あおば歯科クリニックの院長昆敏明です。

本日も根管治療についてお話していきます。この方のケースもパーフォレーションのケースかもしれません。いずれにしても抜髄時にトラブルが発生し、それが原因で治せない(つまり抜歯するしか方法はない)と言われた方のケースです。70代男性Rさんは左下4番が腫れてきたので、かかりつけの歯科医院に受診しました。当日腫れている歯ぐきを切開して膿を出してもらった。痛みは引いたものの、治療が一向に進まない、おできがいつまでも治らないというご相談であおば歯科クリニックに来院されました。

その前に私の左上の抜髄してもらった歯の不具合の続きをお話しします。獨協大学時代に虫歯で初めて抜髄(バツズイ)をした私の身体に実際に起こった体験です。抜髄(バツズイ)をして痛みはなくなったものの、かぶせた後から不具合が続いたため転院するもどこに行っても何ともないと言われ、かぶせものだけを交換されていました。憧れの東北大学歯学部に入学し、歯科の勉強を通じて歯根治療の重要性に気が付き、根管治療の上手い先輩S先生のクリニックに伺うことになったのでした。

これまでの経緯を先輩のS先生に伝えました。レントゲンを撮影し、じっとそれを眺めた後、「とりあえず外して中見てみよう」と言われ、数年前に装着したクラウン(歯にかぶせる冠)を除去し始めました。麻酔はしていません。冠を外し、中の土台も外しました。「昆君、中にこんなの入ってたよ」S先生がピンセットの先に茶色く変色した4~5ミリほどの物体をつまんで見せてくれました。それが何なのか当時まだ歯科の専門課程に進んでいなかった私には理解できませんでした。「先生、それなんですか?」「ワッテだよ」 「ワッテ??」「これですよ、これ」と言ってS先生がユニット(診療台)横のブラケットテーブルに置いてあったワッテ缶を指さしました。 当時まだワッテという単語すら知らない私でしたが、自分の歯の根の中に何か入っていてはいけない物が入っていたんだという事はすぐに理解できました。脱脂綿のことをワッテと呼ぶことをこの時知りました。つまり私の左上第二小臼歯の根の中にはガッタパーチャポイントではなくただの脱脂綿が入っていたのでした。当然、ただの脱脂綿ですから消毒効果等の薬理作用は一切ありません。それどころか当時の歯科医師は素手で治療していました。手袋などは当時ほとんどの歯科で使用していませんでした。その素手で根管の形に丸めた脱脂綿を入れていたわけです。本来、無菌状態で処置しなければいけない抜髄をばい菌だらけの素手で巻いた脱脂綿だけが根管の中に入っていたのです。ここで皆さん疑問が出てきますよね。なぜ脱脂綿を入れたままかぶせものをしてしまったのか?実は現在でも使用されている根管消毒薬でホルムクレゾールいわゆるFC(エフシー)と呼ばれる薬剤があります。この薬剤は脱脂綿の先に少量塗布して根管内に入れる消毒薬として現在も使用されています。つまり脱脂綿にFCを塗布して根管内に入れる処置自体は間違いではないのです。問題は最終的に入れるガッタパーチャポイントではなく脱脂綿を入れたままかぶせてしまった事なのです。しかし脱脂綿をそのまま入れたままにして冠をかぶせてしまうとは一体どういうことなのでしょうか。またその後受診し、診断した歯医者はそのことが分からなかったのでしょうか。これらの疑問と治療経過は後日お話しします。

Rさんの左下4番の写真を見てみましょう。

腫れているのが分かります。よく見るとフィステルが確認できます。

赤矢印の部分です。

上からの写真です。

ほとんど歯質がありません。しかも根管内は茶色くなって見えるので虫歯も残っています。本当に治療していたのでしょうか。レントゲン写真を見てみましょう。

根尖からガッタパーチャポイントと思われる物体が突き出ています。

赤矢印の部分です。その周囲が透過して黒っぽくなっています。黄色で囲んだ部分です。骨吸収が広範囲に生じているようです。

拡大して見てましょう。明らかに突き抜けています。治療をしていたが一向に治らないとのことでしたが、この突き抜けているガッタパーチャポイントをどう治療するつもりだったのでしょうか。

CTで診断します。

明らかに突き出ています。しかも突き出ているガッタパーチャポイントは2本だと分かります。

赤矢印と黄色矢印です。

重なっているのでわかりにくいですが2本突き抜けているように見えます。

骨も大きく溶けてしまっています。

赤丸で囲んだ部分です。

 

頬側(キョウソク)は完全に骨が消失しています。赤色矢印です。左下3番の遠心側の骨も完全に消失しています。黄色矢印です。おそらく手術して開けると健全であるはずの左下3番の遠心側の根面が露出している状態だと想像できます。患歯の左下4番の近心側の骨も完全に失われています。青色矢印です。

突き出たガッタパーチャポイントをどうやって取り除くか。ここまで広範囲に溶けてしまった骨をどうやって再生させるかが治癒のポイントになります。

Rさんからお話を伺うと前医ではなぜこのような病気になったのか、どうしたら治るのかという説明は何もなかったとのことでした。この病気を治そうと考えたら、突き出ているガッタパーチャポイントも含めて感染源を取り除き、骨を再生させる方法を説明しなければ治療に取り掛かれないはずです。

Rさんには1時間ほどお時間を頂戴して詳細に現状をご説明し、手術を含めた治療法をご提案しました。奥様もご一緒され熱心に私の説明を聞いて下さり、納得していただいた上で治療を開始しました。

治療の第一歩は隔壁(カクヘキ)を作ることから始めます。この続きは後日配信しますね。